最近は、蝶の採集で山へ入るとシカやカモシカ、サルなどを頻繁に見かけるようになったが、さすがに完全夜行性のタヌキにお目にかかることはほとんどない。
5月の連休のある日、何年か前に入口にゲートが設置されて車が入れなくなってしまった九頭竜湖(福井県大野市)の奥へ、初めて自転車で入った。この季節、かつては山菜採りの車で賑わっていた当地も、今では小鳥のさえずりだけが支配する静寂の世界が広がっていた。
タヌキは安心しきっていたのだろう。いったい何をしていたのか、白昼、アスファルトの路上にいた。そこへ出し抜けに私の自転車が目の前に停まったものだからたまらない。驚いたタヌキは毛を逆立てて後ずさりし、ネコのように「シャーッ!」と私を威嚇した。一瞬、私がひるんだすきに、タヌキは背中を向けてトコトコと逃げ出し、道路下の川べりの草むらに逃げ込んだ。逃げ込んだといっても私のいる場所からほんの6-7mの距離だろうか。それに、草むらといっても草丈が低いので姿は丸見えである。
なのにこのタヌキ、このあと驚くべき行動に出た。ものの1-2分周りの様子を伺ったあと、安心しきったようにいきなりこの場で寝たのである。その様子が次の動画。
翌日、再び同じような場所でタヌキに出会った。今度は折り悪しく、私が道路の川側にいたためタヌキはとっさに山側へ逃げた。そして、山の急斜面をその体型に似合わず俊敏に駆け登って逃げ去った、ということは一切なくて、登ろうと努力する素振りもなくその場で固まったのである。
今度は10m以上離れているだろうか。しかし、写真のとおり道路のすぐ際で、隠れるものもなく完全に丸出し状態である。なのにこのタヌキ、何を思ったか何も思わずか、またしてもこの場で寝たのであった。その様子が次の動画。
あまりの無警戒ぶりに、思わず悪戯心を抑えきれなくなった私は、少しずつタヌキに近付いてみた。するとどうだ。タヌキは全く私に気付く気配もなく、遂に、手を伸ばせば届きそうな1.5mの至近距離にまで近付いてしまった。とそのとき、突然驚いたように顔を上げ、警戒した面持ちでじっと私を見つめ、クンクンクンと匂いを嗅いでいるようだった。その様子が次の動画。
タヌキは極度の近眼なのか、ほとんど見えていない印象を受けた。そして、たいそう臆病な動物だというが、いやいやそれどころか、可愛い顔をして驚くほどの大胆不敵ぶり! 何だか「狸寝入り」とか「狸オヤジ」とかの語源が分かったような気がした。
コメントをお書きください