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ジャポニカ学習帳「昆虫」が復活

 新聞などの報道によれば、ジャポニカ学習帳の昆虫の表紙が3年ぶりに復活するという。ジャポニカ学習帳を手掛けるショウワノートでは、保護者や教員などから「昆虫は気持ち悪いからやめて」という声が寄せられるようになり、3年前から昆虫をやめて花などの写真にしていた。このたび45周年記念の企画で人気投票を実施したところ、昆虫が人気の上位を占めたため限定復刻版を販売することに決めたという。

ジャポニカ学習帳(ショウワノート株式会社 公式ウェブサイトより)
ジャポニカ学習帳(ショウワノート株式会社 公式ウェブサイトより)

 昆虫が復活すること自体は喜ばしいが、そもそも保護者や教員からの苦情をムシできなくなってやめたというところに由々しき問題を感じる。「由々しき問題」って、たかが子どものノートのこと、と思われる方もあろうが、このことに関しては私は思わず目くじらを立ててしまうのだ。

 常日ごろから子育て支援の仕事をしていて思うことがある。昨今、特に都会では、子どもの育つ日々の環境の中に、土や石ころ、雑草、花、虫といった当たり前の自然が存在しなくなってきている。本来、人間は自然の中で自然に育てられてきたはずなのに、今の子どもたちは昔のように外で自由に遊ぶことさえままならず、そのうえ今の親は、危ないから、汚いからと、子どもが自然とふれあう機会をむしろ積極的に遠ざけようとする。子どもが子どもらしく、ひいては人間らしく成長することさえ困難な生活環境の中で育てられていると思えてならない。

 知らず知らずのうちに子どもの好奇心の芽は摘まれ、小さな生き物とふれあうことで知る「命」を体感する機会は奪われ、人として当たり前の情操が育ちにくくなっている。このことと、学校現場が「人間離れした子ども」「宇宙人のような子ども」の増加に疲弊していることとは、あながち無関係ではないように思う。

 学習帳から昆虫が消えたのは、保護者や教員などから「昆虫は気持ち悪いからやめて」という声が寄せられるようになったからだという。子どもを周りのわずかな自然からも引き離すようにして遠ざけ、写真さえも忌み嫌う。とりわけ教員からのクレームについては、学習の原点であるはずの子どもの好奇心を何よりも大切にしてあげてほしい、と言いたい(保護者からのクレームについては「買わんかったらええやん」と言いたい)。

 子どもたちが当たり前に自然とふれあいながら育つ環境を守り、なければ意識的につくり出し、積極的に与える必要がある。大人はこのことに早く気付く必要がある。