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デジタルの功罪

 毎年、これくらいの時期に人間ドッグを受けている。初めて受けた10数年前は、「人間ドッグ」というとたいそう大げさなものを想像して身構えていたので、最初に身長・体重測定という馴染みのものから始まって思わず苦笑した記憶がある。

 ところで、身長というものは、必ず誰かに測ってもらうものと昔から相場が決まっている。♪柱の傷はおととしの…♪ の中では兄さんが身長を測ってくれるように、保健師さんか誰かが身長計の目盛を読み取ってくれて、何センチと言われれば疑う余地なくそれが自分の身長だった。

 かつて私の身長は179.5cm。自分の目で目盛を確かめたことは一度もないと思うが、別段疑う必然的動機も理由もなかった。

 ところが、いつのころからか身長計までもがデジタル表示となり、事情は少し変わった。

 179.8cm。

 これがいまの私の身長である。別に身長が3ミリ伸びたわけでもなんでもないが、デジタル表示になったことで、はっきりくっきりこの数字が私の目にも飛び込んでくる。それがどうしたと言われそうだが、しかし、これが実にビミョーな数字なのだ。

 私の場合、人からよく身長を尋ねられる。私の年齢ではかなり高いほうなので、面識の浅い人との間で場つなぎの話題になりやすいのだ。ここで「180cm」と答えると、今どき流行りの何やらの詐称か何とかの偽装のようで、何となく後ろめたい。かと言って、8を切り捨てて「179cm」と答えるのも何か違う気がする。そのまま「179.8cm」と答えれば、「でかい図体して細かいヤツ」と思われるのがオチだ。

 つまるところどうでもいいことで悩みは尽きないわけだが、それにしても「98(きゅっぱー)」とは、我ながら何とも安っぽい…。