この日は休暇を取り、土日と合わせて3日間飛騨の低地をやるつもりだったが、白鳥がまだ間に合うという情報を直前にキャッチして飛騨へ向かう途中で立ち寄った。
予定では車横付けポイントで雅恵を降ろし私は奥の尾根へ登るつもりだったが、横付けポイントには平日だというのに先客がいた。仕方なく雅恵を連れて一歩間違えば滑落しそうな急斜面をよじ登り、たどり着いた尾根が右の写真。
良さそうと言えば良さそうだがここに食草はなく、だだっ広いうえに少し傾斜があるので、仮に上がってきたとしても1か所に溜まることなくどんどん上がっていってしまいそう。そもそも、予想したこととはいえ登り口付近の桜は完全に満開を過ぎて「落花盛ん」ないしは「散りはて」、白鳥の街中の桜はほぼ「葉桜」という状態で、尾根で粘っても大したことは起こりそうにない。快晴無風の絶好のコンディションの中、少しだけ粘ってすぐに飛騨へ転戦した。
[記録]2018年4月20日(金) 同行者 雅恵
岐阜県郡上市白鳥町某所 ギフ 1♂(雅恵採集)
伏方の小ピークは麓の発生地ポイントから直登すると途中でメゲそうになるが、地形図を見ると反対側の斜面の中腹を林道が走っているので、こちらからなら根性なしでも登れそうな気がした。
実際に登ってみると、思ったとおりまずまず楽に登れた。しかし、思ったとおりでなかったのは、奥美濃の白鳥の尾根は快晴無風だったのに、ここ飛騨神岡の尾根は風が強くて体感気温は低く感じられた。それに数河高原の桜は未開花だったのに、伏方の尾根のギフはどれもスレないしはボロだった。
下って麓の発生地ポイントへ行ってみる。ウスバサイシンはすでに大きく葉を広げていてギフは最盛期であることを物語っていた。伏方のこれまでの記録と比べると、今シーズンの発生がいかに早いかが分かる。
(神岡町伏方のこれまでの成果)
2013年05月05日 3♂2♀ 最盛期
2015年04月26日 1♂ 新鮮
2015年05月02日 null
2017年04月30日 8♂ 新鮮
[記録]2018年4月20日(金) 同行者 雅恵
岐阜県飛騨市神岡町伏方 ギフ 7♂(内3♂雅恵採集)最盛期
神岡町の低地にサイシン食いのギフが産することが知られるようになったのは、比較的新しいことらしい。情報日照りの私は本当に最近まで知らなくて、「神岡町西」という地名を知って初めて探しに行ったのが2012年5月4日のこと。このときは西では何の手がかりも手応えもなかったが、同じ神岡町の山田でサイシンを見つけ、それをきっかけにその後、山田、大笠、伏方で次々にポイントを発見する。しかし、これらのポイントはいずれも小規模で、何回か通ったが一度に二桁採集したことはこれまでない。だから西に大発生地があろうなどとは、この時点では夢にも思っていなかった。
(神岡町西のこれまでの成果)
(1)2012年05月04日 null
(2)2016年04月16日 null
(3)2016年04月16日 1♂
(3-2)2016年04月23日 null
(3-3)2017年04月30日 1♂
(4)2017年05月03日 8♂
上記のうち(2)と(3)は別な場所で、(3)(3-2)(3-3)は同じ場所である。苦労して何度も足を運んで遂に(4)でポイントを発見した、というふうに読み取れるかもしれないが、実は少し違う。(4)は山の中腹で、尾根でもピークでもない。しかも付近に食草が見当たらない。つまり、たまたま8♂採れたが、胸を張ってポイントを見つけたと言い難いのだ。
そこで、この日は(4)に雅恵を待たせて一人でその上の小ピークを攻める。小ピークといっても標高差250mを登らねばならない。急な斜面を藪こぎで尾根にたどり着くと、うまい具合に小径があった。すぐにギフが出てきて期待が高まるが、意外に数は少ないようだ。尾根といっても次第に登りがきつくなり、周りのクマザサが視界を遮ってたまにギフが飛んでもすぐに見失う。きつい登りをやっとの思いで登り、目指す小ピークが目の前のところまで来た。
いたっー! ピークの地表付近を舞うギフが下から見えた。苦労して登ってきた甲斐があった。これまでの努力がやっと報われる‥はずだった。あれっ? ピークには確かに1頭いたが、1頭しかいなかった。このあと、待てど暮らせど次が上がってこない。天気が良くて気温が上がりすぎか? それにしても中腹でポツポツ採れるのに、ピークでこれほど採れないとはどうしたことか。結局ここから尾根伝いにさらに上へ登ったり、逆に少し下ってまた戻ったりと上へ下へと右往左往したが、10時過ぎから12時半過ぎまで粘ってこの小ピークに来たのはたったの3♂。下りは別ルートで途中のコブに立ち寄って、なんとか2♂追加できた。
中腹の雅恵が待つ場所へ戻ったときには疲労困ぱい、休憩しながらダベっているとポツポツ飛んでくる。多いというほどではないが上の小ピークや途中のコブより密度は高い。急に元気が出てきて、単純にこのすぐ下に発生地があるのではと、よせばいいのに斜面を下り始めた。下りは楽なのであっという間に100mほど下ってしまった。するとどうだ。緩斜面にいい感じの明るい林があって、林内には小川が流れ、林床にはスミレが咲いている。きっとこのどこかにサイシンがあってギフが発生しているに違いない。そう確信した。しかし、これ以上深追いすると、いま下ってきた100mが登れなくなりそうなので、続きは明日の楽しみに取っておくことにした。
[記録]2018年4月21日(土) 同行者 雅恵
岐阜県飛騨市神岡町西 ギフ 16♂(内4♂雅恵採集)鮮度良好。
今日も朝から天気が良くて気温が上がりそうだ。昨日と同じ中腹のポイントに雅恵を残し、朝から迷わず下を攻める。斜面を下っていくといい感じの森が現れ、明るい林床に小川が流れ、スミレが咲き、所々にミズバショウの咲く湿地もある。この一角のどこかにサイシンがあり、ギフの楽園があるに違いない。今日こそ発生地を見つけてやる。いや、もうすぐその辺りで見つかるはずだ。そう思うと胸が高鳴る。
今にも日だまりにギフが飛んできそうだが、なぜか飛んでこない。小さな湿地がいくつかあり、一つひとつ丹念に調べていくがサイシンは見つからない。なぜ見つからない。そんなはずはない。現に昨日ギフがたくさんいたので、まだ芽吹いていないなんてことはあり得ない。なぜだ‥。こうして、今日も今日とて再び深みにはまっていくのであった。
気づけば1時間も歩いただろうか、随分遠くまで来ていた。とそのとき、明るい林床を飛ぶギフを発見! 同時に2頭出てきたため片方は逃げられたが、もう片方はしっかり押さえた。おや? それにしても随分傷んでいる。どうやら下から上がってきた個体らしい。ちょうどその先から林道が下っていたので、もう少し行ってみることにする。
しばらく行くと、ハッと息をのむ光景が現れた。緩斜面の明るい林床にカタクリの大群落があった。そこかしこでギフが頭を突っ込んで吸蜜しているのではと目を凝らすが、いない。いや、必ずいるはずと探しながら下っていく。あまりにたくさん花があるので、どこかでひとつふたつギフが来ていても分からないかもしれない。そう思ってしばらく粘ったが、結局ギフは現れてくれなかった。カタクリに混じってサイシンが生えていないか探したが見つからない。どうやら深追いしすぎたようだ。ここはあきらめて元の場所に戻ろう。
帰りの道のりは足が重かった。頭の中の思考回路も重かった。いったいどこで発生しているんだろう。こんなに探して、どうして見つからないんだろう。それにしても、さっき採った個体はかなりのボロだった。きっと下で発生した個体が上がってきたんだろう‥。
しまった! もしかすると‥。そうか、そういうことだったのか。やっと謎が解けた。どうしてすぐに気づかなかったんだろう。
昨日、雅恵にギフがどっちの方向から飛んでくるか尋ねていた。
雅恵「そんなの分かんないわよ」
私 「『分かんない』じゃ、分かんないだろう」
雅恵「だって、ちっとも来ないから退屈して本を読んでると、気づくと目の前にいるんだもん」
私 「役に立たんヤツだなあ。それでも、なんとなく分かるだろう。下からか?」
雅恵「下からではない(キッパリ)」
私 「じゃあ、上からか」
雅恵「上から来るのもいるけど‥、横から来るような気がする」
私 「‥」
傾斜地ではギフは下から上がってくるか、さもなくば上から降りてくるものという固定観念が私の中にあった。だから「横から来る」という雅恵の主張を相手にしていなかった。
下で発生した個体はすでにボロだった。昨日の斜面のポイントは極めて鮮度が良かった。ということは、下で発生しているわけではないということだ。上は昨日探したが見つからなかった。上でもなく下でもなければ、あとは横しかない。昨日の斜面のポイントは、谷を隔てた隣りの斜面からよく見えているはずだ。きっと隣りの斜面にサイシンがあってギフチョウが発生しており、そこからブルートラップめがけて谷を越えて飛んでくるに違いない。
そう気づいて足早に戻ろうとするが、1時間以上も歩いてきてしまったので随分遠い。天気が良くて気温がぐんぐん上がっている。焦りに焦り、飛ばしに飛ばしたため、最後の100mの登りがしんどかった。雅恵の待つ場所が見通せるところまで来ると、雅恵がいない。なんと、これから私が行こうとしていた谷を隔てた隣りの斜面に移動していた。近づくとなぜか怒っている。
雅恵「さっきから何回もメールしても返信はないし、電話には出ないし、いったいどこを探してんのよ。ここに生えてる、これサイシンでしょ。この斜面にいっぱいあるわよ。ギフさんもいるし」
私 「エラい。よく見つけた」
雅恵「発生地が分かったから、これでいいでしょう。たくさん採ったし、もう帰りましょうよ」
私 「オレが悪かった。頼むから、少し待ってくれ」
斜面を登っていくと、そこかしこにサイシンがズクズクに芽吹いていた。ギフも次々に現れる。どんどん登っていくとどこまでもサイシンがあり、ギフがいる。鮮度も抜群で、ちょうど昨日から本格的に発生が始まって、2日続きの好天で気温も上がり、この日は♀も少し交じるという申し分のないコンデションだった。
ほとんど誰も知らないであろうポイントを自分で見つけ(雅恵が先に見つけたんだっけ?)、春のうららにギフと戯れる。この快感、この充実感、この達成感。これだからギフはやめられない。
[記録]2018年4月22日(日) 同行者 雅恵
岐阜県飛騨市神岡町西 ギフ 15♂3♀(内4♂雅恵採集)
前年の2017年は、5月3日に飛騨の神岡町西でギフ 8♂を採集した翌日に九頭竜の羽見谷で同じく24♂を採集している。鮮度はどちらも良好で、つまり神岡と九頭竜はほぼ同時に発生していた。だとすると今年は先週末で神岡町西が適期だったので、今週末の九頭竜はすでに遅いということになる。しかし、この冬の福井は記録的な大雪で、3月上旬以降高温が続いたにもかかわらず九頭竜観測所(標高436m)の積雪量の値がゼロになったのは実に4月11日である。一方、飛騨の積雪は例年より少し多い程度で、3月の記録的高温の影響で神岡観測所(標高455m)は3月14日に積雪量ゼロになっている。この1か月の差をどうとらえるべきか? もしや今週末でも九頭竜は 未発生? 記録的豪雪×記録的高温=平年並み発生? 下手な考え休むに似たり。これはもう行ってみなけりゃ分からない。
さて、九頭竜湖の細谷で昨年3♂3♀を採集した際には、付近でカンアオイは見つからなかったが、6頭とも完品なので発生地が近いと踏んでしつこく探した。地形図を見ると、良さそうな尾根があり近くを高圧線が走っている。管理用の小径の登り口を探して細谷集落跡の奥で見つけたが、せっかく見つけたのに登る気がしなかった。見上げるとめまいがしそうなほどの急登で、地形図上では小ピークまでの標高差は180m。しかも鉄塔は尾根ではなく中腹斜面にあるようなので、せっかく登っても小径が尾根まで達している保証はないと考えたからだ。
こうして昨年は登るのをあきらめた細谷の尾根だが、改めて地形図をよく見ると別のルートがありそうだ。3♂3♀を採った場所は伊勢川橋から細谷へ向かう道を進んで間もなくのところで、この付近なら藪漕ぎで100m余り登れば尾根の先端にたどり着ける。さらにはGoogleマップの航空写真で見ると、別の鉄塔が付近の尾根に立っていることが確認できた。欲と道連れなら少々の藪漕ぎぐらい平気の平左だ。
かくして小径を180m登るよりも藪漕ぎで100m登る方をあえて選んだ私は、ただのおバカだったかもしれない。尾根にたどり着きさえすればあとは楽勝と高をくくっていたが、尾根にたどり着いてからの方がむしろブッシュがきつく、上へ行けば行くほどきつくなった。でも今さら戻るに戻れず、途中ブッシュの中を飛ぶギフを見てもネットを振るに振れず、泣きの涙でしゃにむに登ってやっと鉄塔広場にたどり着いた。
鉄塔広場は開けすぎていて何もいなかったが、少し進むと小さなコブがありギフが待っていた。さらに進むと、驚いたことに尾根にカンアオイがあった。
ところで、九頭竜湖畔を走る県道230号線は、この時期入口でゲートが閉まっているため、昨年は2人して電動アシスト自転車で往復25kmほどの道のりを走った。しかも2日間通ったため2日で50km走った。私の電アシは26インチなので湖畔のワインディングロードを軽快に走ったが、雅恵のは20インチの小径車のためスピードが出ず、ついてくるのが大変だったらしい。可愛そうに雅恵はよっぽど懲りたのか、上り坂にも強く平たん路も楽勝!という電動バイクを自分でネットで見つけ、発売前にクラウド・ファウンディングで購入した。これ、グラフィットバイクという代物で、自転車と電動アシスト自転車と電動バイクの三刀流で、しかも車載に便利な折り畳み式という優れもの。 だけど電動バイクだとスピードが出すぎて、「去年の仕返し」とばかりに今度は私が後ろからあおられるのではないかと要らぬ心配をしていたが、そんな嫌がらせを受けることもなく、互いに快調に走れた。これは今後とも強力な武器となりそうだ。
[記録]2018年4月28日(土) 同行者 雅恵
福井県大野市旧和泉村細谷 ギフ 27♂(内4♂雅恵採集。他多数リリース)
この日は朝日前坂へやってきた。この付近はその昔何度か探したが、そのたびに討ち死にした鬼門の場所だ。この日は福井和泉スキー場周辺を探すつもりだったが、入口に「私有地につき立入禁止」の看板が立っている。立ち入って見つかると1万円の罰金なんだとか。おっかねー! たかが虫採りでそんな仕打ちはまっぴら御免なので、近づかないことにする。
仕方なく長倉谷付近をウロつくが、前日に続いて朝から絶好の天気なのにギフは現れない。これといった場所が見つからないまま、地図に載っていない新しい林道が急斜面に造成されていたのでこれを徒歩で登る。明るい杉林の斜面を標高差で100m余り登ったところで、良さそうな景色が現れた。
いた! ほぼ登りきって杉の植林が明るい自然林に変わる付近で、続けざまに3頭現れたが1頭しか採れなかった。そして、それっきり後が続かない。所々にカタクリがあり雰囲気は良いが、カンアオイはない。溜まる場所がないせいか、どこからか飛んできた個体が通過してしまうようだ。
付近を30分ほど探したが追加はなく、あきらめて下ろうとしたところへ2頭続けざまに飛んできた。これでまた30分ほど粘ってしまったが追加はなく、今度こそあきらめて少し下ったところで、写真を撮り忘れたことに気づいて戻ろうとした。するとどうだ、振り返った私の視線の先にギフが舞っている。今度も3頭続けざまに出てきて、1頭は逃げられたが合計5♂完品の成果となり、まずは満足した。
それにしても全部で8頭ほど見たが、ひとつとして下から上がってくる個体はなく、途中の林道上や斜面でも一切見かけることはなく、周囲にカンアオイも見当たらない。要はどこかにギフの飛ぶルートがあってそこからの流れ弾と考えられるが、ルートは解明できないままに終わった。
午後、他へ移動しようと車を走らせて間もなく、はて? 妙なところに名古屋ナンバーのSUVが停まっている。朝から停まっていて、山菜採りかと思っていたがそうではないらしい。何しろ「山菜採り禁止」の看板の前に半日停めているのだから、きっと違うのだろう。これは怪しい。きっと蝶屋に違いない。斜面に立ち消えそうな林道が付いているのが目に入ったので、行ってみることにする。
少し登ると見通しのきく場所に出た。ここにトラップを仕掛けて雅恵に待ってもらうことにして「ここに仕掛ければあっちから飛んでくるから」と、したり顔で説明しているところへ、いきなりあらぬ方向からギフが飛んできてビックリ。しかもネットの中を見て二度ビックリ、♀だ! 朝からカンアオイが見つからず苦労していたが、♀ということは近くに発生地があるに違いない。
急に色めき立って周辺の林内を探す。しかし、どうしてもカンアオイが見つからない。窪地状の地形があり、明るい林内に小川が流れている。カタクリやコゴミがあり、何よりもギフの♀がいた。なのになぜカンアオイがない?! 半ばヤケで上を探す。またしても明るい杉の植林の中の林道を上へ上へと登り、途中1♂を追加し、標高差で100mぐらい登ったところのコブをチェックしたがいなかった。遂にここでもカンアオイは見つからなかった。
鬼門だった朝日前坂で2か所のポイントを見つけ、計7♂1♀完品の成果とあらば手放しで喜んでも良さそうだが、結局発生地がみつからないまま不完全燃焼に終わった。
[記録]2018年4月29日(日) 同行者 雅恵
福井県大野市旧和泉村朝日前坂(1) ギフ 5♂
福井県大野市旧和泉村朝日前坂(2) ギフ 2♂1♀(内1♂雅恵採集)
この日、またしても朝日前坂に来ていた。前日会った採集者から教えていただいたポイントへ行くためだ。聞くところによれば、自分は一人なのでクマが怖いから行かないけれど、30-40分も歩けばポイントに着くとのことだった。今思えば一人だと心細いので一緒に行って欲しかったのかもしれないが、そのときはそうとは思わず、お礼に私がさっき見つけたポイントを教えて別れた。
さて、朝早いとクマと遭遇する確率が高いので遅めの出発とする。午前8時20分に歩き始め、ゆっくり歩いてちょうど午前9時にポイントらしき場所に着いた。トラップを仕掛けて少し待つが飛んできそうにない。林内に足を踏み入れ、カンアオイがないか探すが見つからない。林道を奥へつめてきたのと標高がやや高いことで思ったよりも残雪が多く、周囲の状況からフライングと判断。30分いただけでそそくさと退散した。
次に向かったのは、以前車で通りかかったときに偶然ギフに出くわした場所で、そのとき1♂1♀採集しているので近くに発生地があるに違いない。残念ながら着いて間もなく雲が増え始め、昼前には日照がなくなってしまった。それでもしつこく午後1時ごろまで探すが、ここでもどうしてもカンアオイが見つからない。気づけば、またしても急斜面の杉林の荒れた林道を徒歩で150mほど登っていた。
それにしてもこの3日間、よく登った。標高差100m以上を5本登り、うち4か所でギフを採集または目撃したが、カンアオイを見つけたのは初日の細谷だけだ。「○○と煙は高い所に上がりたがる」とはよく言ったものだと思う。 えっ?「○○」はもちろん「ギフ」ですけど、それが何か?
[記録]2018年4月30日(月祝) 同行者 雅恵
福井県大野市旧和泉村朝日前坂(3) ギフ null
福井県大野市旧和泉村角野前坂 ギフ 1頭目撃
この日も好天で絶好の採集日和なのに、何を血迷ったか全く記録のない場所で朝から新産地開拓に挑んでいた。2-3か所を探したが手応えなく、ふと気づけばギフチョウではなくカンアオイを探している自分がいた。こんなことは今しなくたってシーズンオフにだってできる。我に返って午前11時過ぎに、前回4月30日に1頭目撃した角野前坂の杉林の斜面へと向かう。
途中、石徹白川の河岸段丘がふと気になって立ち寄ってみる。釣り人が川へ降りる小径をたどって断崖のような急斜面を下りながら、ウスバサイシンならこんな場所でも平気なんだよなあと思ってなにげに目をやると、本当にサイシンが生えていた。
「ええっ、ここのギフって、サイシン食いだっけ?」
先日来、血眼(ちまなこ)になってカンアオイを探しているのに、いきなりサイシンが見つかると頭がパニクりそうだ。
だが、次の瞬間もっと驚いた。あんなに探して見つからなかったカンアオイが、サイシンのすぐ横に生えているのだ。それもいっぱい。それなのに、なぜかカンアオイよりも先にサイシンが目に入った。
「いったいお前、どこ見てんだよ」
カンアオイがそう言っているような気がした。よく見ると、サイシンの根元にもカンアオイが生えている。完全に混生しているのだ。さらに驚いたことに、なるべく平坦な場所を好んで生えると思っていたカンアオイが、切り立った絶壁のような場所に生えている。なかには岩の表面に付着したコケの上に生えているものさえある。こんな特殊な環境に生えるカンアオイを初めて見た。それにしても、カンアオイがありそうな場所をいくら探しても見つからないのに、全くあり得ないような場所にあるとは‥。ギフチョウ以上にカンアオイは奥が深いと思った。
[記録]2018年5月5日(土) 同行者 雅恵
福井県大野市旧和泉村大谷ほか ギフ、カンアオイとも発見できず。
福井県大野市旧和泉村角野前坂 ギフ 1♂2♀(内1♂雅恵採集)
この日は、4月30日にフライングだった朝日前坂のポイントへ行く。6日経ってさぞかし芽吹きが進んだと思いきや、この間の天候不順の影響もあってかポイント周辺は意外に季節が進んでいなかった。しかも斜面が北西向きのために朝のうちは日当たりが悪くて飛びそうにない。
それでも午前9時半過ぎに最初の1頭を目撃し、その直後に急斜面のブナ林で足元から飛んだギフをとっさにキャッチしたら羽化したての新鮮な♂だった。よく見ると付近の林床にパラパラとカンアオイがある。しかし、このとき新葉はまだ芽吹いておらず、ギフは発生初期と想像できた。
それでも発生地が判明したので、斜面を登ればどこかに溜まる場所があるだろうときつい急斜面を潅木につかまりながらなんとか登っていく。地形図上は斜面を真っ直ぐ登れば平坦な尾根に出るはずだが、意外に地形が複雑で途中で小さな沢が幾筋も入り込んでいて容易に前へ進めない。無理をすると帰りで道を見失いそうだ。慎重に進み、悪戦苦闘しながら途中の小さな尾根に出たが、日あたりはいいが猛烈なブッシュのため2-3歩も前へ進めない状態。ここで遂にギブアップ。
林道に戻るとトラップを仕掛けて待っていた雅恵も全く見ておらず、早めの昼飯をとりながらしばらく待つがギフは現れず。結局、早々の午前11時半ごろに下山した。
[記録]2018年5月6日(日) 同行者 雅恵
福井県大野市旧和泉村朝日前坂(3) ギフ 1♂
私はしつこいオヤジなので、3週連続で朝日前坂にやってきた。さすがに林道入口付近はすっかり若葉の季節で、ギフチョウというより完全にミヤマカラスアゲハの景色だ。林道を奥へ奥へと30分歩いても景色は変わらず初夏のたたずまいだが、それが最後に大きくカーブを曲がって斜面の向きが南西から北西に変わった途端、劇的にタイムスリップして季節が初夏から春に戻る。過去の2回はこのトリックを見破ることができずにフライングを繰り返したが、今度はどうやら季節は良さそうだ。
しかし、この日は天気予報に裏切られて、終日晴天のはずが朝から雲が多かった。北西向きのためただでさえ午前中の日当たりが悪いのに、時々日が差す程度の天気では厳しい。待っていても出てきそうにないので、午前10時過ぎに「ちょっとカンアオイの芽吹き具合を見てくる」と雅恵に言い残して斜面をよじ登った。驚いたことに、ブナ林の林床のカンアオイは未だに芽吹いていない。森が深くて木漏れ日程度しか林床に届かないので、余計に季節の進みが遅いようだ。
そうこうするうちにやっと日が差してきた。もう少し登るとスギ林の中にスポット状に日が当たる場所があるので、そこまで行ってみる。ちっぽけな陽だまりでしばらく待ってやっと現れたギフをご丁寧にも振り逃してしまったが、天気が良くなってきたので、先週は途中であきらめた尾根にもう一度チャレンジすることにする。
先週は帰りの道を見失わないように慎重に登ったので時間がかかったが、今日は思ったよりスムーズに登れた。先週は行く手を阻まれた猛烈なブッシュのやせ尾根も、しゃにむに突破して正味30分余りの苦行でたどり着いた尾根は、地形図から予想したとおり広い平坦な地形で、そこには新緑のブナの森がたたずんでいた。
この森はクマの棲家か? 慎重に歩を進めながらカンアオイを探したが、これはあてが外れた。森が深くて林床にほとんど日が届かず、ギフが上がってきたとしても溜まる場所がない。でもよく探すと、向こう側の林縁に少し開けた場所があって日が当たっている。
近づいてみると、いたっ! 苦労してたどり着いた場所でギフに出会ったときの感動は何度味わっても格別である。この場所は「開けている」と言っても開けているのは頭上だけで、足元は開けていない。つまり地表面は潅木に覆われているのだ。一番低いところで1.5mほどのクマザサで、ほかは2-3mの潅木が生い茂っている。この潅木の「梢」をギフが舐めるように飛びながら行ったり来たりしている。人の目線より下に来ることはほぼなく、常に上空を占有して飛び続けている。下から見上げるギフチョウは、5月の陽光に羽が透けて見えて思いのほか美しい。ギフチョウのこのような占有行動を観るのは初めてと思う。本格的な山ギフの経験の乏しい私は、いつも何らか人手の加わった環境を飛ぶギフばかりを観ている。こうした本来の自然の中を飛ぶギフチョウにこそ、ギフチョウ本来の生態を観ることができるというべきだろう。
この場所で1時間あまり粘って7♂を採集したほか、多分同じぐらいの数を採り逃がした。ただの1度もブルーネットに来ることはなく、動くものに敏感に反応して逃げるので近づくことが難しい。私の知らない行動をとるギフをいつまでも追っていたかったが、後ろ髪を引かれながら、やや雲が出て低調になった正午きっかりに見切りをつけて下山にかかる。なにしろ雅恵には「ちょっと‥見てくる」と言い残してきた。食料も水もろくに持たずに空身で登ってしまったので、まさか尾根に登ったと思わずきっと心配しているに違いない。携帯もつながらないクマの巣のようなブナの森で、「ちょっと‥見てくる」で2時間戻らなかったら普通は心配する(もし心配されていなかったら少し考えた方がいい)。でも急いで下って道に迷っては元も子もないので、慎重に下って20分で元の林道へ降りた。案の定というか、私が想像した以上に雅恵は心配していて半分涙目になっていた。 反省!(←反省だけなら、サルでもできる。)
[記録]2018年5月12日(土) 同行者 雅恵
福井県大野市旧和泉村朝日前坂(3)ギフ 9♂2♀(内2♂2♀雅恵採集)